「いや、流石にマズイだろう。それは」
「? なんでですか?」
無垢な眼差しで問われる。
年頃の女が年頃の男の部屋に上がることに何の抵抗も感じないのか、コイツは。
しかしこの高橋伯爵は節度を守る男だ、注意してやらないとな。
「だって俺らもいい加減いい歳なんだし…」
周りの視線が痛い。
するとやっと事を察したように、
「あ〜…」
とか考えている。
頼む、頼むから寝かせてくれ。
「…でも、高橋君はそんなことしませんよね?やっぱり起こしますよ」
嫌がらせか。
なんでそんなに確信に満ちた顔してるんだ。
こうなったら仕方ない、英国紳士も少し狼にならねばならんようだ。
全ては安眠のため・・・。
「いや、分からないぞ。もしかしたら俺もムラムラときて…ってことになったらどうするんだ?」
周りの視線がいっそう強くなる。
理解力の無いやつらだ。
すると空気の読めない久野が一言、
「ん〜…まぁ、その時はその時です」
…。
まいったね、こりゃ。
「では明日からお邪魔しますんでよろしくお願いします。」
と、久野が言う。
ここまでされたら英国紳士としても責任を取らねばならんだろう。
「…明日から…よろしくお願いします、ハァ……」
俺の言葉を聞くと、久野は昼食を食べに走っていった。
そうだ、麻奈にはなんて説明しようか…。
まあいい、俺も飯にしよう…。
午後の課程も終わり放課後。
特に用事もないため、すぐに帰宅することにした。
「はぁ・・・全くもってめんどいなぁ・・・」
そんな事を呟きながら歩いていると、
「いよう、友よ! 肩を落としてどうした? 何か恋の悩み事か?」
「うぉっ! ・・・って祐樹か・・・おどかすなよ、ってか恋とは全然関係ねーし」
いきなり話しかけてきたのは、恋愛ならなんでもござれの祐樹だった。
そのために、誰と誰が付き合ってるとか、そういった話は手が早い。
彼は何故か、表に流れそうにないマイナーな恋愛情報まで知っていたりする。非常に不思議だ。
「んで、結局相手は誰なんだ〜?」
「お前な、人の話ってもんを聞けよ・・・」
「いーや、俺にはわかるぞ! 恋愛絡みならそいつからにおいがするからな!」
どんなにおいだよ・・・と内心でツッコミつつも、いきさつを話した。
しかし、すぐに話さなきゃよかった、と思うことになる。
「ちょっとお前それ大問題じゃねえかよ!」
「まぁ、確かに俺にとっては大問題だな・・・睡眠時間減るわけだし」
「そういう問題じゃねえだろ! お前っ・・・女の子が朝起こしてくれるんだぞ!?」
「・・・で?」
「で? ・・・じゃねえだろおおおおおおおちきしょおおおおおおおお俺にもその幸せをおおおおおおおお・・・」
まだ何か言ってるがとりあえず耳から耳へスルーしておこう。
さて、家の前に到着したわけだが。
「見事に何も考えてねぇよ・・・」
祐樹の相手をしていたせいで、麻奈に対する言い訳を全く考えていなかった。
「どうすっかな・・・」
家の前で10分ほど言い訳を脳内で試行錯誤。
うむ、何も思い浮かばない。そして通行人の目線が痛い。考えるのは止めよう。
「ま、どうにかなるだろ・・・・・・」
「ただいま」
「あ、お兄ちゃんおかえりー! ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・・・」
パコーン!
「はうっ」
全て言い終わる前に麻奈の頭に俺の平手打ちが炸裂した。
「いったー! 冗談なのにぶつことないじゃーん! 頭1回叩くと脳細胞が3万個死ぬんだよ!?」
「ほぅ、じゃああと100回くらい叩けばバカになるか?」
「うーうー・・・お兄ちゃんがいじめるよぉ・・・」
「別に俺はいじめてるつもりはないぞ。冗談には冗談の応酬だ」
「むー・・・とりあえず着替えてきたらー?」
「・・・そうする」
ダメだ、言う隙が無い・・・夕飯時にでも言ってみるか。
今日のメニューは白米に味噌汁に焼き魚に漬物。
「今日は和風料理か」
「和風だよー。日本人なんだから基本は和風でしょ〜」
基本だったのか・・・。
「まぁ・・・とりあえず食おう。腹減った」
「うん、それじゃぁ、いただきまーす」
「いただきます」
よし、切り出すなら今しかない。
「あー・・・あのさ、麻奈」
「ん? なぁに、お兄ちゃん?」
さすがに、女が朝から来るなんて言ったらどうなるだろうか・・・。
ぼかして言っておこう。うん、そうしよう。
俺の地位も安泰だ。
「ちょっとな、明日の朝から人が来る。しばらくだ」
「ほえー・・・なんでー?」
「あんまりにも俺が遅刻ばっかしてるから、朝起こしに来るらしい」
「おぉ〜、私でも起こせないお兄ちゃんを起こしに来るとは、なかなか度胸ある人だね〜」
「うぐっ・・・まぁ、そういうわけだ。そいつと仲良くしてやってくれ」
「うん、わかったぁ」
まぁ、これが後々ちゃんと言っとけばよかったと思うことになるわけで・・・。
「さて・・・と」
どうしようか。今の時間は22時。
「寝るには早過ぎるだろ・・・」
夜型人間の俺にとっては、まだまだ暴れたりない。
「といっても、あの久野だしなぁ・・・」
俺を遅刻させないようにするには、なんだってするだろう。
そう、まさに”なんだって”だ。
起きたらパジャマ姿で学校にいたとか・・・あの委員長ならやりかねないな・・・。
「・・・想像したら寒気が」
とりあえず明日に備えて寝るとするか・・・。
「くっそー、寝れっかな・・・」
30秒後。
「くかー・・・・・・・・・すー・・・・・・」
チュン・・・・・・・・・チュン・・・・・・
雀のさえずりが聞こえる。
「・・・・・・から・・・・ちゃんは・・・・・・・しが・・・すの!」
「べつに・・・・・・・・・とも・・・・・・ないでしょう!」
・・・なんか朝から騒がしい。
とりあえず起きる。だんだんと意識がはっきりしていく。
そうするにつれて、昨日のことを思いだす。
「・・・・・・ああああああああああああああ!」
しまった、麻奈には昨日濁して言ったの忘れてた。
あいつは男が来ると思っていたんだろう。
とりあえず制服に着替え、居間の横に構える。
「女が起こしに来るなんて話、聞いてないよ!?」
「高橋君だって話しづらいでしょう! どうしてわかってあげられないんですか!?」
うーん、俺を争って二人の女の子が・・・
・・・何変なこと考えてるねん俺。
さて、どうするかな・・・
1.麻奈に謝り、ちゃんと話す
2.委員長に今後来てもらわないように言う