あーもう、俺よりしっかりしてるって事は分かってるんだけど、どうも見てると危なっかしい。
 しかし、何時もに増してその様子をおかしくないか? あたふたと財布を取りに戻るその顔は何処か赤みが差しているようにも見える。
「おい、妹よ」
「はっ、何でありませう」
 返事も何か変だ。確認するため、麻奈に近寄り、額に手をやる。
「お前、熱あるんじゃないか?」
 熱い。手の平が熱い。いや、性格には手の平が触れている麻奈の額が熱いのだ。人の平均体温なんて分からないけれど、この熱は平常時のものとは思えない。本当に大丈夫だろうかと、顔を覗き込む。
「風邪でも引いたんじゃないか?」
 麻奈は何も言わず顔はますます赤くなるばかり。うわぁ、今年の風邪は厄介だとかニュースで言ってたし、それの類かもしれない。と言うか、今年の風邪は厄介だと毎年言っている気がする。要は風邪はみんな厄介ということかっ!
 風邪なんて引いたら大変だ。今現在この家は麻奈のおかげで何とかなっているのだ。そんな麻奈に倒れられたら明日からの食糧問題は紛争地域並みに貧しいものとなってしまう。
「買い物なら俺が行くから休んでろ。なっ」
「あ……うん。でも悪いよ」
「悪いも何も、日頃から上手い飯食わしてもらってる恩だと思え。もう嫌っつっても行くからな、猪の如く」
 未だぽけーっとした顔の麻奈は心此処に有らずといった感じだ。矢張り体調はよろしくない模様。

「でも、買い物くらい」
「いいからお前は寝てろ」
 口答えをするのなら強攻策だ。よっと掛け声を掛けて麻奈を持ち上げる。膝裏と肩辺りに手を当てる古くから歴史のある女人の持ち上げ方。必殺お姫様抱っこ。
「ちょっ、お兄ちゃっ!」
 持ち上げられたままじたばたと動くが、麻奈は軽い。そしてこの体勢で暴れてもそれ程苦しくない。すたすたとソファの所まで抱き上げたまま歩き、解放。
 ソファの上へと軟着陸させる。ぽすっ、という理想的な音を立てて落下。隊長、着陸に成功しました、理想的な軟着陸です。
「良いから熱っぽい奴は寝てろ。お前の身に何かあったら心配するだろうが」
「……あ、うん。ありがと」
 矢張り顔は紅潮している。食後は風邪薬を飲ませる事にしよう。

 麻奈から預かった買い物メモを手に、いざ、買い物へ。