そして、今日のバイトは終わった。
唐突に感じるかもしれないが、とにかく、なつきと約束をした次の日のバイトは終わった。
なに?本当に働いているのかって?
嘘ではない。実際に働いている。
信用できない?ソースをよこせ?
魔女の釜の底が開いたような想像が可能な、汗が弾ける角刈りの筋肉たくましい兄ちゃん三人と働いている俺の姿なんてみたいのか?
ん?え?見たくない?わかった信じる?うん、ごもっともだ。
とゆうわけで今日のバイトは終わった。
簡単な着替えが入った、でかめの巾着のような袋(学校の体操服とか入れるアレ)を手に持ち、海の家の外を見回す。
まだ来てないかな。
海水浴場と道路の境目に設置してあるコンクリートのブロックに腰を下ろす。
昨日と同じで、水平線に太陽が空をオレンジ色に染めながら沈もうとしている時刻だった。
この時刻、車道に車はもう余り通っていなかったが、地元の人らしき人達が自転車でよく通る。
海を見ながら、後ろを通り過ぎていく自転車の音に耳を済ませていると、ちりんちりんという自転車のベルを鳴らす音が聞こえた。
思わずその方向を振り向く。
まだ姿は小さかったが、昨日知り合った女の子――なつきが自転車に乗ってこっちに来ていた。
手を振る。
向こうも手を振り替えした。
まもなく姿が大きくなって、キッというブレーキとタイヤが擦れる音を発して自転車は俺の前に止まった。
「すいません、ちょっと遅れちゃったみたいですね」

「あの、本当にすいません。そそっかしくて…」
結局、俺が自転車を漕ぐことにした。
なつきは当然のことながら後ろ。荷台に横に腰かけ、俺の服の裾をつかんでいる。
「別に良いって。で、それはともかくさ、どこをどう案内してくれるんだ?」
「あ、はい。まずは、えーっと…お腹空いてません?」
「空いてる」
即答。当然だった。
バイト中は軽食じみたものしか口にしていないし、終わってからすぐなつきと合流したので、腹は空きに空いていた。
「じゃ、まずは夕食にしましょう。美味しい店があるんです。そこの角を右に…」
指示に従って自転車を走らせる。
「そういえば、だけど」
「はい?」
「なつきって歳いくつ?」
「…ですけど」
「え?なんて?」
自転車を走らせることによって発生する合成風と海風が相まって上手く聞こえなかった。
「…ですよ」
なつきが俺の耳に口を近付けて言った。
今度は聞こえた。
「なんだ。同い年じゃないか」