「やっぱりアレでしょ、官能小説!」
俺は少し開き直り気味に叫んだ。
「真夏の燃えるような熱い夜!男と女の愛の狂宴!
互いが互いを求め合う時間!・・・素敵だとは思わんかね!?」
まるで新説を唱える学者のような気迫である。
困惑した彼女は、俯き加減に呟く。
「え?……は、はぁ…。」
構わず俺は続ける。
「そして、陰と陽がひとつになる時…
ふと我に返った。
彼女は耳まで真っ赤だ。
ちょっと可哀想なことをしたかな。
「…そ、そういうのは、読んだこと…ないです……すいません……。」
俯いたまま彼女が言う。
とたんにとめどない罪悪感が襲う。
このままではマズイ。
ここは俺の名俳優っぷりを見せるしかない。
「…うーん、あれ?いやー、暑さで気がどうかしちゃったのかな、俺。
最近暑いよねー、エルニーニョとか地球温暖化とかのせいかな?」
俺が元に戻ったのを確認して
「…暑いですよね。なら図書室は冷暖房完備なので涼みにくるといいですよ。」
と言ってくれたもののやはり罪悪感が残る。
そろそろ出よう
と思ったが、俺はまだ彼女の名前を聞いていないことに気が付いた。
「そう言えば俺、高橋っていうんだけど。君は名前なんて言うの?」
「私…ですか?」
「うん」
「青木梓です…」
「青木さんて言うんだ。また涼みに来るからその時はよろしく」
そう言い残し俺は図書室を出て教室に向かった。
午後の授業も終わり、放課後になった。
さて、これからどうしたものだろう。